長編

□過去
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一年前



「洗濯はいつしてンだよ」

珍しく一方通行が起き、一緒に朝食を取っている時だった。

「だいたいは朝だよ?帰ってきてからしちゃうこともあるけど」

太陽ないと乾きが悪いもんね、とナマエは続けた。

「急にどうしたの?」
「洗濯くらい俺がしようと思ってよ……」

聞かれたくなかった、と一方通行は思う。
彼の性格上、気遣いを知られるのは苦手だ。

「え、干してくれるの?」
「そォ言ってンだろ」
「ありがとう!」

朝食を食べ終えたナマエは立ち上がった。
そして皿を流しに持って行く。

「オマエに頼りっぱなしってのも、ねェだろ」
「まぁそうか、そうだね。じゃあ皿洗いも頼んじゃおうかな」
「テメ……」

反射的に反感は沸くも、まだ食べ終えていない自分の皿を見て一応は納得した。
ナマエはすぐに家を出るのだ。
自分が完食するまで待ってはいられない。

「じゃあよろしく。いってきます」
「おォ」




皿洗いを終えた一方通行は洗濯機と対峙していた。
家事をしなかった彼でも洗濯はしていた。
使い方くらいわかる。
洗濯カゴを抱え、中身を機械へと放り込んでいく。
ふと小さいネットに入ったものが入った。

――ン?何だァこりゃ

疑問には思ったが気にしなかった。
洗剤を入れスイッチを押す。
ザアアア、と水の流れる音が響いた。




電子音がして蓋を開ける。
軽く能力を使いつつ、衣服やタオルを手早くハンガーに掛けていく。

――と、シワ伸ばしゃいいんだっけか

洗濯ばさみも忘れない。
二人分なのでさほど時間はかからなかった。
最後にネットが残っている。

――あァ、コレか。中身は……

ファスナーをジジ……と開けると
ブラジャー。
可愛らしい刺繍のしてある、桃色の下着だった。

「……、…………」

ジジジジジ……

思わずファスナーを戻してしまった。
冷や汗が流れるのを感じた。

――ナマエ…!

朝のことを思い返せば自分にも非はあった。
ナマエの朝は忙しい。
洗濯カゴに自分の下着があることに気が回らなかったのだろう。

――言うタイミングが悪かったか……?

彼女は今日まで自分で洗濯するつもりだった。
洗濯カゴにナマエの下着があるのは自然なことだ。
しかし……
見ず知らずの自分を家に上げたのは優しさなのだと思っていた。

――もしかすっと……アイツどっか抜けてンじゃねェかァ?

ここまできたら自分が洗ってしまったのには変わりない。
一方通行は割り切ることにし、洗濯ネットのファスナーを再び開けた。




「ただいまー」

ナマエが帰ってきた。
今日は買い物をして来なかったようだ。

「おォ、おかえり」
「今日は起きてるんだねー」
「いつも寝てるわけじゃねェよ」

ナマエは機嫌が良い様子で頭を撫でてくる。
表面上は軽く嫌がっておくが、内心は嫌ではない。
どちらかというと心地よいので好きだ。
ナマエには絶対言わないが。


「洗濯物乾いたかな〜」

軽い足取りでベランダへ向かうナマエ。
その後姿が停止した。

「……ん?」
「……どォかしたかよ」
「わ、私の下着……干した?」

ギギ、とぎこちない動きでナマエが振り向く。

「あァ。洗っちまったモンは干すしかねェだろ」
「そ、そうだけど、あなたがネット入れたまま下着干す方法知ってるとは思わないけど、うああああ!」

そう言うとわなわなと頭を抱え出した。

「まァ、事故だろ。気にしてねェよ」
「私が気にするの!うあああお嫁に行けない……!」

男と住む方がよっぽどマズいンじゃねェのか。
一方通行は内心思ったが適当に解決案を提示してみた。

「……家族、だと思えばイイだろ」
「……なるほど」

要は気の持ちようでしかないのだが、あっさり納得されてしまった。

「その台詞がまさかあなたの口から出るなんて。お姉ちゃん嬉しいな」
「誰がお姉ちゃンだ」

ナマエがニヤニヤしながら除き込んでくる。
一方通行は顔を背けながら吐き捨てた。




To be continued...
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